2019 SHOUNDOアート駅伝
第1区 西藤 博之
期間:2019/4/1~10/31
アーティスト紹介
Hiroyuki Saitoは、1965年、富山生まれ。現在も富山に暮らし、活動している。アカデミックな芸術教育は受けておらず、完全に独学で美の表現技法を身につける。初期作品の木造彫刻や木版画は、表現手段の特質をよくとらえており、原版という平面が持つ制約がうまくいかされている。黒と白の強烈な対比や、本質にまで切り詰めた輪郭など、基本的な表現技法を用いることで、この芸術家は、庶民的で時代を超えた芸術表現の仕方を受け継いでいる。日本の伝統にしっかり根差していると同時に、他のさまざまな国の文化にも連なっている。
Hiroyuki Saitoは、若い頃より文学を愛好し、多くの読書を通じて、個性的かつ明確に規定された思考法を自分のものにしてきた。1999年、『不思議の国のアリス』に着想を得た作品は、東京で開かれたある合同展覧会にて好評を博した。この成功をきっかけに、彼の芸術も変わりはじめる。すでによく知られ、人びとの集合的記憶をなしているテーマを、個性的なやり方で新たに読み替えていくこと――それが、無限の潜在可能性を秘めていることに、意識的になっていくのだ。こうして彼は、日本の文化と分かちがたく結びついた歴史をテーマとし、仏教の殿堂へと向かっている。彼は、過去の遺産を尊重しながら、それを新しいやり方で提示しようとしている。
それ以来、Hiroyuki Saitoの仕事は、日本の彫像の深い研究に裏打ちされている。多くの書物を読み、実物を見に出かけては、大量に模写している。彼が特に関心を寄せているのは、京都や奈良の寺院にある彫像だ(三十三間堂や平等院など)。彼はそうした仏像に、現代のダンスを踊らせ、現代音楽を演奏させて、仏像が持つダイナミズムや近代性を表現している。菩薩像や他の仏像は、こうして浄土のロックバンドとなって、エネルギーを伝えてくる。6本の腕を駆使して演奏することは、ドラマーなら誰もが夢見ることではなかろうか。Hiroyuki Saitoの作中人物が体現しているのは、古くからの伝統と21世紀の芸術の見事な融合である。それはまた、最も高度な芸術形態と大衆文化――とりわけポップ・ミュージックに代表される普遍的な大衆文化――の融合でもある。作品は固有の時空間を作り出し、歴史の境界を取り除き、分類や価値判断にはとらわれない。誰もが一目でわかるような、イメージの外観上の単純性。木に彫るという身体技法から導出されてくる力強さ。作者の情感がにじむ重量感ある形態がもたらすインパクト。それらがみな、Hiroyuki Saitoの作品から醸し出されてくる、驚嘆すべき力を際立たせているのである。
ヴァレリー・ドゥニオ 美術学博士・フランス (引用:official siteより)